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マーケティングの定番のスローガンは、「作ったものを売るのではなく、売れるものを作る」。
そのために、売れる市場を見きわめ、競争者と差別化する手法、いわゆるSTPが開発された。そのスローガンと手法は未だ健在だが、それがもっとも通用した時代は、探せば未開拓の領域が市場に見つかった時代。

今は少し様子が違う。

消費者の生活の中にモノが溢れ、消費者が選ぶのに困るほどの供給過剰状態。品質も過剰気味で、新機能・効能が付加されても消費者の反応は鈍い。市場が成熟したのだ。
スローガンも変わる。「売ることより、まずつながること」だ。21世紀に入る頃から、ブランドを重視し、ブランドと顧客との関係を見直そうとする企業が増えた。顧客との関係の再構築によって成長余地を探る。
ケースで言うとわかりやすい。キットカットは、「きっと勝つ」の語呂合わせをきっかけに、受験という高いストレスを抱えた若者の心を掴んで売上を伸ばした。競合相手のグリコポッキー等の市場を奪って成長したというより、これまでになかった新市場(縁起物)を創ることで成長した。チョコレート菓子というそれまでの消費者との関係を作り替えたのだ。それだけではない。彼らは、広告媒体との関係も変えた。ホテルに宿泊する受験生にサンプル配布した。それを受け取った受験生はもちろん喜んだ。同時に、それを手渡したホテル側も、宿泊客の受験生に喜んでもらえるということで喜んだ。配布に協力したいというホテルが次々に出てきた。ホテルでのサンプル配布。普通であれば、メーカー側から頭を下げて販売促進費を払ってホテル側にお願いにいくところ。しかし、そうはならなかった。キットカット側にもホテル側にも、それぞれにそのキャンペーンの価値が生まれたからだ。

「共に価値を創る」ことの大切さがよくわかる。

売ることばかりを考えていると、チョコレート菓子という既存の業界発想を抜けきれない。媒体は買うものという取引の考えにこだわっていると、互いにとっての価値という発想は生まれない。脱業界、脱競合、脱取引の可能性を求めたい。
そのためには、まず相手との新しいつながりを求め、共に価値が創れないかを考えることだ。自分が変わり相手が変わる、こんな柔らかい関係づくりが肝要なのではないだろうか。

学校法人中内学園 流通科学研究所 所長
神戸大学名誉教授

1970年神戸大学経営学部卒業。
75年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。
同志社大学商学部教授から、89年神戸大学経営学部教授、
経営学研究科教授、 経営学研究科現代経営学専攻長、
08年流通科学大学学長(神戸大学名誉教授)を経て、16年に現職に。
著書に「営業をマネジメントする」(岩波書店)、新訳「事業の定義」(碩学舎)、
「マーケティングを学ぶ」 (筑摩書房)、「寄り添う力」(碩学舎)など多数。
現在は「デザイン・マーケティング」「インターネット・マーケティング」など
幅広い分野にて研究活動を行う。
セミナー講師他、様々なトップ企業の顧問としてマーケティング戦略策定に参画。
日本商業学会賞、商工中金奨励賞、経営科学文献賞、
テレコム社会科学奨励賞などを受賞。
他、日本商業学会前会長、日本マーケティング協会理事。